活用事例 > 富栄養化とは?

リモートセンシングデータによる富栄養化のモニタリングについて紹介します。
富栄養化事例
●「富栄養化の概要」

 富栄養化(ふえいようか)とは、海・湖沼・河川などの水域が、貧栄養状態から富栄養状態へと移行する現象のことです。 本来は、池や湖がある環境条件下での生物群集の非周期的な変化、いわゆる遷移によって、 水中の肥料分(リンや窒素など)の栄養塩類濃度が低くプランクトンや魚類が比較的少く生物生産活動が活発ではない貧栄養水域から、 栄養塩類濃度が高く生物生産活動が極めて活発な富栄養水域へ、その湖沼型を変化させてゆく非人為的な過程を指す言葉でしたが、 しかし、近年では、人間活動の影響による水中肥料分の濃度上昇を意味する場合に多く使われるようになってきております。 この富栄養化の要因としては、下水・農牧業・工業排水など多岐にわたると考えられています。

 人為的な富栄養化は生態系における生物の構成を変化させ、一般的には生物の多様性を減少させる方向に作用します。 極端な場合には、赤潮や青潮などの現象を二次的に引き起こすため、富栄養化は公害や環境問題として広く認識されるようになってきています。

 富栄養化が進行した水域は、栄養塩類が豊富に存在するため、太陽光の当たる水面付近では光合成による一次生産が増大し、 特定の植物プランクトンが急激に増殖する傾向があります。 これらのプランクトンの増殖が、赤潮やアオコの形成につながります。 また、光合成が停止する夜間には、生物の呼吸による酸素の消費が増えるため、水中が酸欠状態となります。 さらに、異常増殖したプランクトン群集が死滅すると、それらが沈降し、水底では有機物の酸化的分解が進行し、 水中に溶存する酸素の量、すなわち溶存酸素量が急激に低下して貧酸素水塊が形成されることになります。 さらに悪化すると、有機物の分解が停滞してヘドロが堆積し、増殖に酸素を必要としない嫌気性微生物が優占して悪臭の原因となります。 また、水塊と周囲の水が混和し、魚介類に酸欠被害をもたらすことがあり、結果として、 富栄養化が進んだ環境では光合成による一次生産は増えますが、漁獲量の増加にはつながらず、逆に害の方が大きく、 特に赤潮や青潮の発生時には、養殖漁業が大きな被害を受けることになります。

 このような海・湖沼・河川などの水域の富栄養化を模式化すると図1のようにになります。 すなわち、健全な生態系では、窒素やリンなどの栄養塩類の流入により、 紅藻類・褐藻類・緑藻類などの大型藻類や植物プランクトンがそれらを捕食する生物個体数とバランスして程よく繁茂し、 水の透明度を適度に保つことができます。 植物プランクトンや藻類が適度な密度に保たれることで溶存酸素レベルが魚介類にとって最適になり、 その結果として、我々は水域環境の恩恵を受けることができます。

 一方、富栄養化した生態系では、農場、市街地、工場、下水処理場等からの排出物や栄養塩類が海洋環境中に大量に流入し 植物プランクトンを餌とする動物プランクトンや魚類による消費能力を超えて急激に増殖させてしまいます。 これらの増殖が、水質の透明度を低下させ、太陽光の浸透を減少させ、溶存酸素を減少させ、水中の水生植物の減少を招き、 その結果として有害藻類の異常な発生を引き起こすなどし、水質汚濁と魚介類の死滅をもたらすことになります。